坂井家の事情



このままいけば引き分けで終わる。

本当ならば罰ゲームがなくなるので、両者とも都合は良いはずなのだが。

しかしさやかにも意地があった。

今まで勝ち続けてきたというプライドもある。

このままズルズルと引き分けに持ち込むのも、何となく癪だった。

何より、試合直前での悠太の態度が気に食わなかった。

引き分けで逃げようという魂胆なのは明白である。

男らしくない。

全くもって姑息な手段だ。



(全く……チョロチョロと!)

さやかは苛立ちを感じていた。

こちらから攻撃を仕掛ける度に、逃げられているのだ。

やはりいつもの悠太ではない。今回は珍しく頭を使っている。

彼女はここで反撃をしようとしたのだが、ふと思い直した。





敵の懐へ、自ら飛び込んでいったとしたら――?





わざと相手の誘いに乗ってみるのである。

悠太が何を狙っているのかはまだ分からなかったが、どうせまた姑息なことを考えているに違いない。

残りは1分もないのだ。

もう迷っている時間はなかった。
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