坂井家の事情
(しめたっ!)
悠太は見逃さなかった。
それは、ほんの刹那だったろう。
さやかの左脇――左ストレートを繰り出してきた瞬間の、僅かな隙間だった。悠太には最後のチャンスでもある。
真っ向から迎え撃つフリで、フェイントを掛けてみた。
見事に釣られたさやかは、完全に左がガラ空きになった。悠太がそこへ夢中で飛び込んでいく。
しかし彼女にとってそれは既に、予想の範囲内であった。
その瞬間を捕らえようと待ち構えていたさやかは、身体の重心を素早く移動――。
―――させたはずだったのだが。