坂井家の事情



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《新役員の事情》

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「ではそろそろこのへんで、今期のクラス委員を決めたいと思う」

担任の柴田綾子(しばたあやこ)は教壇に立つと、教卓の上へ無造作に書類の束を置いた。そして両手をつき、教室内を一通り見回した後で再び口を開く。

「といってもお前らは違う学校から、クラスメイトになったばかりだ。まだお互いのことをよく知らないだろう。
この前取ったアンケートを参考にして、1学期のクラス委員をこちらで決めさせてもらう」

有無を言わせぬ口調のままで彼女は、書類を適当にめくった。


「じゃあ委員長だけど……川上。お前は小学校では児童会長をやっていたようだな」


「おお、マジかよ」「すげー」

教室内が一斉にどよめいた。

「だからお前が、このクラスの委員長だ」

「はい」


クラス中がざわめく中で、静かに返事をする川上圭吾(かわかみけいご)。

突然指名されたにもかかわらず、彼は落ち着き払った態度で担任の綾子を見詰めていた。

一気に浴びせられた生徒たちからの熱い視線をものともしないその風格に、別小学校出身の生徒たちが「委員長!」と、一斉に心の中で叫んだとか叫ばなかったとか。


「それじゃあ、次は副委員長だが……山崎。お前は6年間、ずっとクラス委員長をやっていたようだな」


「おおっ、6年間も委員長やってた奴がいるのか」「この人も、なんかすげーかも」

ざわざわざわ…。

「というわけで、山崎が副委員長な」

「あ……は、はいッ! がっ、頑張りますッ!」


山崎翼(やまさきつばさ)は名前を呼ばれると、反射的に飛び上がっていた。

先に指名された圭吾とは違い、あからさまに動揺している様子ではあったが、すぐに決意を示す。


「続いて会計だが……亀岡。お前は児童会では、会計係だったらしいな。
それに珠算検定2段の資格も既に持っているのか」

「はいハイはーいっ。俺こう見えても計算、めっちゃ得意なんですぅー!」

机から身を乗り出すように両手を広げ、元気よく跳ねながら無邪気な笑顔で返事をする亀岡雅昭(かめおかまさあき)。


「ええっ、こんな軽そうなのに!?」「ねえねえ、『にだん』ってそんなに凄いの??」


ざわざわざわざわ…。

「じゃあ次は書記だが……吉澤」

「おおおっ、今度は何やってた奴だ?」「もしかして児童会で、書記でもやってたのか!?」
「それとも6年間、書記をやってたとか」「漢字検定1級持ってるとか??」


ざわざわざわざわざわ…。


期待を含んだクラス中の目が、一斉に当の本人、吉澤斗真(よしざわとうま)へと集まってきた。

しかし彼は、ゆっくりとした動作で右手を挙げると。


「先生。俺、児童会でもクラスでも、何の係にもなったことがないんスけど」

ふて腐れるような態度で恫喝でもするかのように、鋭い視線を綾子へ向けた。


彼は決して怒っているわけではなく、普段からこんな顔付きであった。

が、何も知らない他校出身の生徒たちは、その目付きの悪さに畏縮してしまっていた。教室内が一瞬で、水を打ったような静けさに変わる。


だが綾子はそんなことなど気にも止めず、今までと同様の態度のまま、下の書類へと目を通す。


「ああ、お前の場合はクラスで一番、綺麗な字を書いていたからな。―――では続けて会計と書記についてだが、他にあと1名ずつ追加で……」



一瞬の間が開いたものの。



『それだけかよっ!』

クラス全員が、そうツッコんでいた。
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