坂井家の事情
「響(きょう)、律(りつ)、迎えに来てやったぞ」

『ももさわ保育園』と掲げられた玄関口で、悠太は奥へ向かって声を掛けた。瞬間、ツインテールの小さな少女が躍り出てくる。

「悠太兄ちゃ〜ん!」

軽い足音を鳴らしながら嬉しそうに、少女は悠太の腰に飛びついてきた。

「悠太、遅ぇじゃねぇかよ!!」

続けて後ろから飛び蹴りが炸裂する。背中に当たったその衝撃で、悠太は少女もろとも地面へ前のめりで倒れ込んでしまった。

「響てめぇ、いきなり何すんだ! 律が怪我したらどうするんだよ!」

痛みで顔を歪ませると、まだ抱きついたままの律を抱えながら後ろを振り返った。

「悠太がこんなことくらいで転ぶのが悪いんだろ! バーカ、バーカ」

「何だと!?」

「ふふふ…相変わらず元気がいいわね、君たちは」

二人が取っ組み合いの喧嘩をしていると、クスクスと笑いながら一人の女性が入口から姿を現した。

この園の保育士をしている成瀬遥香(なるせはるか)だ。
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