プリンな彼女
「でも、真紀ちゃんが一緒だからって、あんなに頑張らなくってもいいのに」

稲葉があんなに高級なお店に連れて行ったのは、真紀ちゃんが一緒だからだとあたしは思っていた。
多分、あたしと稲葉だったら、絶対オヤジが行くようなお店になったに決まってるもの。

「別にそういうわけじゃないさ。あの時は山本さんと俺じゃあどうにもならなかったと思うし、新井には感謝してる。会議も無事終わったし、徹夜までさせてこれくらい安いもんだよ。ほんとありがとう」

次の日の会議は、会社の上層部に対して行う戦略会議で、とても重要なものだった。
そのために資料も何度も作り直して何日も前から準備していたのだが、なのに前日の失態により稲葉1人の責任では済まされるものではなかったのだ。
それだけじゃない、会議で説明している時に気付いたのだが、祐里香は資料をただ作り直すだけではなく、見やすいようにさり気なく修正もしておいてくれた。
当日の会議は完璧で、それは喜ばしいことではあったけれど、稲葉の評価だけが上がったことには少なからず負い目を感じていたのは事実。
だからというのではないが、せめてもの気持ちとして普段入らないような高級店に祐里香と真紀を連れて行ったのだった

「何よ、改まって。気持ち悪いわね」

あたしは照れもあったけど、稲葉に真面目にそんなことを言われたのが変にむずがゆくて、それを誤魔化すようにいつもの口調で返した。

「ほんとのことだから、ありがとうな」

いつになく神妙な稲葉に、あたしは一瞬戸惑ってしまった。
いっつも意地悪でオレ様な稲葉が、こんなふうに素直にお礼を言うなんて…。
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