プリンな彼女
「もう、いいって。それよりさっき、あたしと稲葉が付き合っちゃえばって真紀ちゃんに言われてなんで否定しないのよ」
「あぁ?別に否定することも、ないかなって」
「どうしてよ」

───何で、否定することがないのよ。
普通、そこは違うって言うでしょうに。
それとも、あたしは女として見られてもいないってことかぁ…。
別に稲葉にどう思われても構わないけど、なんだか寂しいと思うのはなぜなのか…。
『誰かに持っていかれちゃいますからね』という、真紀ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。
そう言えば、稲葉って彼女いないのかな…なんて、余計なことを考えたりして…。

「俺としては、これを機にきちんとお付き合いしたいんだけど」

ここで告白するつもりはなかったが、流れとでも言うのだろうか、今言わないと機会を逃しそうな気がしたからだが…。

「・・・・・・」

ん?稲葉は一世一代の告白をしたのにもかかわらず、肝心な彼女からの返事が返ってこない。
───これって、断られたってことなのか…。

恐る恐る、顔を隣に向けると───。
オイオイ、ここで寝るかよっ!
という稲葉の心の声など、またもやスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている祐里香に届くはずもない。
ガックリと肩を落とす稲葉に対して、祐里香は既に心地いい世界へと飛び立っていた。

───そう言えば新井って、酒があんまり強くなかったんだな。
自分でも言っていた、『あたしって、お酒は好きなんだけど、ビ─ルのジョッキ1杯が限界なのよね』と。
なのに、ここへ付き合ってくれたのか…。
それを喜ぶべきなのだろうけど、もう少し起きていてくれても…。
だいたい、こんなに無防備に男に寝顔を見せるのか。

稲葉は眠っている彼女の肩に腕を回すと、頭を自分の方へ凭れさせる。
───せめてこのくらいのことをしたって、罰は当たらないだろう。
微かにいい香りがする彼女を感じながら、一人お酒を楽しむ稲葉だった。
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