プリンな彼女
「ふうん。なんかよくわからないけど、きっとみんな喜ぶわ。稲葉って、結構人気あるらしいから」
「なんだそりゃ。おかしいだろ」

この男には、自分がいい男だという自覚はないらしい。
そういうところが、彼の良さなのだろう。

「ということだから、よろしくね」
「あぁ」

稲葉との合コンかぁ…って、参加するのは彼だけじゃないけど、ちょっとだけ楽しみな祐里香だった。

+++

花金。
今時そんな言葉を口にする者はいないけれど、明日は休みだと思うと心は晴れやかである。
残業にならないようにと祈りながら定時を迎えると、あたしは即行名前の札を裏返してフロアを出た。
別に今夜の合コンに賭けているわけでもないが、下手に残っているとなんだかんだと捕まりそうだから、早く退散するに限る。
───ところで、稲葉は大丈夫なのかしら?
確認するの忘れてた。
彼を連れて行かないと、後で理子になんて言われるかわからない。
───どうしようかなぁ。
もう一度、戻るわけにもいかないし…。
稲葉こっち見ないかしら、と思っていると運良く目が合った。
あたしが「帰れそう?」と口パクで言うと、彼は人差し指と親指で輪を作ってOKのサインを出す。
「じゃあ、下で待ってるから」と再び口パクで言いながら人差し指を下に向けて上下に動かすと、今度は大きく頷いた。

場所は、会社近くに新しくできたお店。
早速行ったという人から安くて美味しかったという話を聞いて、そこにしたのだと理子が言っていた。
二人が約束の時間より少し遅れて店に入ると、既に全員揃っている。

「祐里香、稲葉君。遅い」
「ごめんね」「すみません、遅くなって」

「もうっ、待ちくたびれたわよ」と大げさに言う理子の隣の席に稲葉が座り、あたしは一つしか空いていない両隣を男性に挟まれた席に座るより仕方がない。
見知った顔もちらほらあったが、半分は祐里香の知らない人達だった。
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