プリンな彼女


───ちょっと飲み過ぎたかも。
祐里香の飲める許容範囲は、とうに超えていた…。

「新井、帰るぞ」
「え?」

いつの間にか、あたしの後ろに立っていた稲葉に腕を引っ張られる。

「すみません。俺達、帰ります」
「ちょっ、稲葉っ」

なんてあたしの言葉が届くはずもなく、稲葉に手を引かれて店を出ていた。

「大丈夫か?」
「うん」

稲葉の優しい声に、わけもなく心臓の鼓動が早くなる。
もしかして、あたしが酔ってるのわかってて連れ出してくれたの?

「稲葉?」
「お前なぁ、あんまり飲めないんだからちゃんと断れよ。あんなやつらにお持ち帰りされてもいいのか?」
「なっ、何言ってるのっ」

───お持ち帰りなんて…そんなことあるはずないじゃない。
稲葉ったら、何わけわかんないこと言ってるのよ。

「気づいてないのは、本人だけだな」
「どういう意味よ」

───わけわかんない。
それより、手を離して欲しいんだけど…。
店を出る時から、ずっと稲葉に手を握られている。
嫌じゃないけど、なんか変なんだもん。

「安心しろ、俺がちゃんと送ってやるから」

稲葉は握っていた手に少しだけ力を込めると、ゆっくり歩き出した。
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