プリンな彼女

story7

次の日、祐里香がトイレに入っていると、後から入って来た女子社員達の洗面所前でのこんな会話が耳に入ってきた。

「ねぇねぇ。稲葉さん、昨日と香りが変わったのよ。彼女かな」
「そうなのよ。でね、あたし聞いてみたの。『香り、変えたんですか?もしかして、彼女からのプレゼントですか?』って」
「うわぁっ、早。で、彼何だって?」
「『あれ、わかった?女性は、そういうところに気付くのが早いんだね』って。だから、すかさず新井さんから?って、突っ込んでみたわけよ」
「えっ、それでそれで?」

相手の子は、かなり興奮状態だ。
───香りって…あたしがあげたやつ、稲葉もうつけてくれたのね。
っていうか、肝心なのはそこじゃないのよ。
何で、あなたの口からあたしの名前が出てくるわけ?
祐里香もその先が気になってトイレを出ようにも出られず、ドアにへばりついて聞き耳を立てる。

「稲葉さん。ニコニコ笑って、何て言ったと思う?」
「何て言ったの?やぁ~ん。もったいぶらないで、早く言ってぇ」
「『そうだよ』だってぇ~。かぁ~恥ずかしげもなく言われて、あたしその場に倒れるかと思ったわ」
「やっぱり~。何人かの女子が、プレゼントを渡しても受け取らなかったって言ってたし。新井さんと付き合ってるって噂は、本当だったのね」
「まぁ、でも相手が彼女なら誰も文句は言えないわよねぇ。あぁ、でもいいなぁ。稲葉さんみたいな素敵な人が彼氏なんて」

───どこが、素敵な彼氏よっ!
あたしに断りもなく、勝手に彼女なんて言いふらしてからにっ!!
稲葉のやつぅ…許さ~ん!!

鼻息荒く、祐里香はトイレのドアを勢いよく開けると話していた女子社員の間に割って入るようにして水道の蛇口を捻る。
まさか、彼女達も中に祐里香が入っているとは露知らず…。
これでもかというくらい石鹸をつけて、バシャバシャと手を洗う祐里香をぽっかりと口を開けたまま見つめるしかなかった。
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