プリンな彼女
「これ、どうしたの?」
「うちの携帯作ってるメ─カ─さんがさっき来て、くれたんだよ。彼ら、CMに出てるだろ」
「そうなの。あたし、このバンド大好きだから、もらえるならすごく嬉しいけど。でも、稲葉は?せっかくだから、行けばいいのに」

───そうよね、行きたいのは山山だけど、稲葉だってこのバンドは好きだったはず。
あたしにくれるより、自分で行けばいいのに。

「これ、何枚あるように見える?」
「ん?2枚だけど…」

───え…。
2枚ってことは…まさか、一緒に行こうとか言わないわよねぇ…。

「ちょうどいいだろ。俺と新井が、一緒に行けば」

───やっぱり…。
って、あたしはこんな話をしに来たんじゃなくってっ!
稲葉に一言文句を。

「何で、あたしが稲葉と一緒にコンサ─トに行かなきゃならないわけ?」
「なら、これいらないか。山本さんに、あげてこようかな」
「うわぁっ、だめ!」

チケットを顔の辺りで、わざとチラつかせる稲葉からそれを急いで奪い取る。
ムカつくぅと思いながらも、今はそれどころじゃなくってっ。
───そんな、もったいない。
せっかくのチケットなのにぃ、あげちゃうなんてぇ…。

「じゃあ、俺と行く?」
「行く行く。この際、稲葉と一緒でも我慢するっ」
「我慢ってなぁ。俺と行くのが、そんなに嫌なのかよ」
「ううん、そんなことないって。稲葉と一緒に行けて、嬉しいっ!」

ふて腐れたように言う稲葉に慌てて祐里香は弁解すると、瞳をパチパチさせて満面の笑みを彼に向ける。

ゲンキンなやつ…。
と稲葉は思ったが、彼女が断れないことをわかっていて自分もモノで釣っているのだから同じこと…。
チケットを愛おしそうに撫でている祐里香を見ていたら思わず抱きしめそうになって、天井を見上げて誤魔化した。
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