プリンな彼女

story8

「祐里香さん、回覧です」
「ありがとう」
「随分、嬉しそうですね。何かいいこと、ありました?」

真紀ちゃんが回覧の書類を持って来てくれたのだが、稲葉にコンサ─トのチケットをもらってからというもの、あたしは嬉しくてつい自然に顔が緩んでしまったようだ。
言っておくけど、もちろん稲葉と一緒だからじゃなくって、コンサ─トに行けるのが嬉しいからよ?
そこのところ、間違わないでね。

「コンサ─トのチケットをもらったのよ。なかなか見られない、プレミア物」

「これなの」と、机の上に置いてあったチケットを真紀ちゃんに見せる。

「えっ、これ。すごいじゃないですかぁ。どうしたんですか?」
「稲葉にもらったの。うちの携帯を作ってるメ─カ─さんにもらったんですって」
「いいなぁ、祐里香さん。私も行きたいですぅ」
「真紀ちゃんも好きなの?」
「はい。大ファンなんですっ」
「そっかぁ…」

あの時、稲葉と一緒に行くのを躊躇ったら、真紀ちゃんにあげてこようかなって言われて…。
自分が行きたいから我慢するなんて言って、取っちゃったのに…。
真紀ちゃんには申し訳ないことしたわね。
───あたしって、こういうところがダメなのよねぇ…。

「でも、いいんです。っていうことは、祐里香さんは稲葉さんと行くんですね?」
「え?あぁ、まぁ…。なんか、あいつも好きだって言うから」
「いいなぁ。彼と好きなバンドのコンサ─トデ─トなんて」
「はぁ?ちょっ、ちょっと真紀ちゃん。デ─トってのは、違うでしょっ!」

興奮して、また声が大きくなったあたしは、慌てて両手で口を押さえる。
よく考えたら、コンサ─トに行けるのはとっても嬉しいことなんだけど、稲葉と一緒なのよ。
会場に入ってしまえば、気にならないとは思うんだけど…。

「楽しんで来て下さいね。私も、どこか一緒に行きたいです」

───あ~彼氏とね?
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