プリンな彼女
小さい声で「彼氏と?」って聞くと、小さく頷く真紀ちゃん。
そうよね?彼氏と行けたら、最高かも。
彼氏とねぇ…。
ふと、視線を真紀ちゃんの後ろに向けると稲葉が電話に出ている姿が目に入る。
やっぱり、いい男ではあるわよね?
仕事もできるし、優しいところもあるし…。
彼氏だったら申し分ないのよね、きっと。

「今度、稲葉に言っておくから。そういう時は、さり気なく4枚もらうようにって」
「お願いします」

自分の席に戻って行く真紀ちゃんを見送りながら、祐里香はチケットをそっと財布の中にしまったのだった。

+++

祐里香がキャビネに資料を探しに行くと、小山課長が何冊ものファイルを山のように持ってどこかに運ぼうとしていたところだった。

「小山課長、お手伝いしましょうか?」
「あっ、新井さん。いっ、いや、だっ、大丈夫だから…」

───ん?
小山課長、どうしたのかしら?
なんだか妙におどおどしてるようだけど…。

「一人でそんなに持てないですよ。少し、お持ちしますから」
「そっ、そう?悪いね。じゃあ、お言葉に甘えて頼もうかな」

観念したのか!?あたしは課長からファイルを数冊受け取ると後に付いて行く。
小山課長は、今年30歳になったと聞いている。
なかなかのイケメンで、物腰が柔らかくてとても優しいと女子社員の中でも特に人気が高い。
課長の中では一番若いから、下の者からの相談なんかもよく受けているお兄さん的存在だった。
しかし、浮いた話は一切なくて、未だ独身というのが不思議なくらい。

「課長。こんなにたくさん、どうするんですか?」
「これから、会議でね。その前に昔の資料を全部引っ張り出して、調べなければならないんだ」
「大変ですね」
「仕方ないさ」

フロア隅にあるミ─ティングル─ムにファイルを置くと、小山課長は「ありがとう、助かったよ。これ、もらい物だけど」と祐里香の前にチョコレ─トを差し出した。
それは、どこかの海外土産のようだった。
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