プリンな彼女
「あの…出しゃばったまねをしてるのは、わかってるんですけど。真紀ちゃん、えっと山本さんのことで」
「え…」

まさかここで彼女の名前が出てくるとは思わなかった小山課長は、ジョッキを持ったままその場に固まってしまった。
というか、なぜ真紀ちゃんの名前が出てきたのかすらわからない稲葉は、二人の会話が理解できずポカンとしているし。

「課長っ、そんな奥手でどうするんですか?」

ビ─ルを飲んで一気に酔いが回った祐里香の毒舌が始まった。

「いやっ、それはね」
「真紀ちゃん、『私が無理に告白したりしたから、迷惑だったんでしょうか』って」
「山本さん、そんなことを…」
「ちょっと待てっ。何なんだよ、俺には全く話が見えないんだけど。どうして、ここに山本さんの話が出て来るんだ?」

一人取り残されていた稲葉は、とうとう我慢できずに間に割って入る。

「稲葉は、黙ってて。これは、あたしと課長の話なんだから」
「黙っててって、じゃあ俺は何のためにここに連れて来られたんだよ」
「ん?何でだっけ」

オイオイ、新井…。
ガックリと肩を落とす、稲葉。
彼は、課長を呼び出すためだけにここに来たようなもの。

「新井さんにまで…申し訳ないね、僕がこんなだから」
「課長は手を握ったりとか、そういうの苦手なんですよね?」
「どうなのかな、昔からこんなだから女性に愛想をつかされるんだろうな。僕はただでさえ、彼女と10も違うわけだから、余計にね」
「課長っ、真紀ちゃんを逃したら後がないんですよ。ガッツリ捕まえておかないと。稲葉を見てくださいよ。付き合ってるわけじゃないのに、あたしの平気で手を握ったり」
「あ?ちょっと待て、俺がいつ手を握ったんだ」
「握ったでしょ?覚えてないわけ?無意識なんだぁ」
「あのなぁ」

祐里香と稲葉の会話がおもしろくて、思わず吹き出してしまった小山課長。
自分もこんなふうに思ったことを口に出せたら…彼女に心配掛けずに済んだのに…。
『後がないんですよ』と言う言葉は、確かにそうだろう。
あんなに可愛い子なんて…。
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