プリンな彼女
「新井さん、僕はどうすればいいのかな?」
「そうですね。まず、稲葉を真紀ちゃんだと思って見つめてみて下さい。カボチャだと思えば大丈夫ですから」
「え…稲葉君を…カボチャって」

「何で、俺がっ」という稲葉の声など無視して、あたしは小山課長に真剣に指導する。
次は、手を握る練習も欠かさずにやって。

「今夜は、即電話を掛けて下さいね。ちゃんと、好きだって言葉も忘れずに」
「できるかな…」
「できるかなじゃないんですっ。やるんです」
「はいっ。わかりました」

どっちが課長だかわからなくなってくる。
ただ、今までの経緯からようやく課長と真紀ちゃんが付き合っているのだとわかった稲葉。
奥手な課長をこんなに一生懸命変えようとしている祐里香が、やっぱり好きだなと思う。

「新井っ、飲み過ぎだっつうの」
「いいの。今夜は、飲みたいんだから。それに稲葉言ってたでしょ?俺が側にいる時はいいって」
「それとこれとはっ」

結局、酔いつぶれてテ─ブルにうつ伏せて気持ちよさそうに眠ってしまった祐里香。

「稲葉君も大変だね」
「もう、慣れました。それより、課長をこんなふうに呼び出してしまって。俺、何も知らなかったから」
「僕は、新井さんのおかげで助かったよ。正直、彼女とはどうしようって思っていたところなんだ」
「こいつ、お節介ばっかり」
「山本さんがいつも言ってるんだ。祐里香さんと稲葉さんみたいなカップルが、憧れなんだって」
「俺達ですか?」

さっきも言ったようにまだ、カップルにはなっていないのに…。
早くそうなってくれればいいけど。

「うん。君達はお似合いだと、僕も思うよ。負けないように頑張らないとな」

祐里香の寝顔を見つめながら、稲葉はそっとス─ツのジャケットを彼女に掛けてやった。
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