プリンな彼女
「このプリンも美味しいんだけど、この前、稲葉に連れて行ってもらったお店のプリンが最高だったな。今まで食べた中で、一番美味しかったもん」
「そうか?そりゃぁ、良かった。だったら、また一緒に食べに───」

ピロピロピロピロピロ───
   ピロピロピロピロピロ───

「一緒に食べに行くか?」と言おうとしたところへ、祐里香のデスクの上にあった携帯が鳴り出した。
───なんだよっ、いいところだったのに!!
稲葉の声にならない声が聞こえてくるようだ。
なんというタイミングなのか、彼にとっては不運というしかないが…。

「もしもし。えっ、中川君?やぁ、珍しいね。どうしたの?」

───ん?中川?誰だ?中川って。
君って呼んでいたところから、男かよっ!!

祐里香の携帯に入った男からの電話に、稲葉は気が気じゃない。

「今?残業なのよ、稲葉に頼まれちゃって。そうなの、もう徹夜かも」

───あ?相手は、俺のことを知ってるやつなのか?
ちょっと待てよ。
中川…中川…中川…。
あっ…中川って、もしかして同期の中川 裕仁のことか?!
名前を知っているということは、社内の人間にほぼ間違いないだろう。
仮に相手が中川だったとして、何で新井の携帯番号を知ってるんだ!!
俺だけじゃなかったのかよっ。
突っ込みどころはそこではなかったかもしれないが、今日中に徹夜覚悟で終わらせなければならないことがあるというのに稲葉にとってはそれどころじゃなくなってきた。
耳がダンボになって、その場から離れることができない。

「えっ、映画?中川君と?」

───何っ、映画だと!!
あいつ、抜け駆けか!!

「やだっ。ちょっと稲葉ったら、何するのよっ」

無意識に稲葉は祐里香から携帯を奪い取ると、勝手に電話を切ってしまった。
切ってしまってから、謝っても遅いけど…。

「ごめん」
「稲葉?」

稲葉はどうして、こんなことをしたのだろう?

「中川なんかと…あいつなんかと、映画なんか行くな」
「え?」

これは…よくわからないけど、恐らく嫉妬とかいうものなのでは…。
稲葉の沈んだお顔を尻目にあたしは、嫌味っぽく言ってみる。
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