プリンな彼女
「あ~ぁ、中川君に誘われたの超話題作のプレミア試写会だったのよねぇ。すっごい、見たかったのにあんなふうに切っちゃって、稲葉どうしてくれるわけ?」

中川に誘われたのは、すごく見たいと思っていた超話題作の映画のプレミア試写会だった。
あんなふうに電話を切ってしまっては、さすがに連れて行ってとは言えない。
というか、見たいけれどあたしは初めから彼と映画に行くつもりなんかなかったし、敢えてそういう言い方をしてみたのだ。

「ごめん」
「ごめんじゃ、済まないわね。責任取ってもらわないと」
「責任?」
「そう。代わりに稲葉が連れて行って」
「でも…プレミア試写会なんて…」
「いいわよ、普通に公開されてからで」
「え?」
「あのプリンのお店にも、連れて行ってくれるんでしょ?」

電話がちょうど掛かってきた時、稲葉が言い掛けた言葉をあたしはちゃんと聞いていた。
コンサ─トだって相手が稲葉だったから行ったのであって、誰でもいいわけじゃない。
あたしは、そんな軽い女じゃないんですぅ。

「あぁ、わかった。でも、いいのか?」
「いいって?」
「俺と一緒で」
「何を今更言ってるのよ。いいに決まってるでしょ。それより、早く仕事をしないと」
「そうだな」

電話を勝手に切ってしまった時は稲葉もどうしようかと思ったが、彼女の言葉に自分だけが特別な存在のように思えてなんともいえない気持ちになっていた。
───今だけは、自惚れてもいいだろうか?
後で中川には色々言われると思うが、それでも自分のしたことに後悔はなかった。
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