プリンな彼女
「そういうつもりは、ないんだけど…」
「だったら、きちんと断って下さい」
「え?」

真紀ちゃんの真剣な表情にあたしはなんていうか、圧倒される感じ。
な~んて、感心している場合じゃなくって…。
自分も彼女みたいにバシっと言えれば、面倒なことにならなくて済んだのにねぇ。

「稲葉さんという人がありながら、そんな」
「いや、稲葉はねっ」
「どうするんですか?もちろん、断りますよね」
「はい…」

───これじゃあ、どっちが年上なのかわからないわね。
はぁ…。
でも何だろう、稲葉にだったら思っていることを口に出して言えるのに他の人だと自分でもわからないけど、はっきり言えないような気がする。

いつも思っていることをはっきり言う祐里香が、なぜか中川の前ではそれが言えない。
このまま、ズルズルと誘いに乗ってしまうのか。

+++

『今度の金曜日、18時に駅で待ってるから』
とは言われたものの、まだ断りの電話を入れていない。
約束は、明日なのに…。

「新井?聞いてるのか?」
「えっ、ごめん。でっ、何だっけ」
「おい、どうしたんだよ。ボ─っとして、らしくもない」

『中川なんかと…あいつなんかと、映画なんか行くな』
稲葉の言った言葉が、何度も何度もあたしの頭の中をリフレインする。

「ううん、何でもない」
「なら、いいけど。で、ここなんだけど、こんなふうに直してくれないか?」

仕事の話をされても、ちっとも耳に入らなかった。



「稲葉さん、お忙しいところすみません。ちょっといいですか?」
「山本さん。いいけど、どうかした?」

ミ─ティングル─ムを借りて一人調べものをしていた稲葉のところへ、真紀が入って来た。
何か急ぎの用でもあるのだろうか?

「あの、お仕事の話じゃないんですけど…祐里香さんが明日、えっと中川さんという人と映画を見に行くお話は知ってますか?」
「えっ、中川と」

───あいつ、まだ懲りずに新井にちょっかい出してるのか?
だけど、あの話は俺と行くって約束したじゃないか。
なのに、何で中川と一緒に行くことになってるんだ。
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