プリンな彼女

story2

周りがざわざわする音が耳に入ってきて、あたしは意識を戻した。
───ここは?
あれ?そう言えば、昨日は残業して徹夜になったんだわよね。
でも、あたしはなんでこんなところで寝てるのかしら?
起き上がると肩から誰かのス─ツのジャケットが摺り落ちる。
これは、稲葉の?
あたし、知らないうちに寝ちゃったんだ。
時計を見ると始業10分前。
すると、真紀ちゃんがあたしの姿をを見つけてすぐに駆け寄って来た。

「祐里香さん。おはようございます」
「真紀ちゃん、おはよう」
「あの…」
「うん、さっき終わったところだから」

あたしの言葉に張り詰めていた糸が切れたように彼女の顔がほころんだ。
真紀ちゃん目が真っ赤だけど、もしかして寝てないの?

「よかったです。ありがとうございます」

あたしの手を握って、何度も何度もお礼を言う真紀ちゃんがすごく愛しかった。
それより、さっきから稲葉の姿が見えないようだけど。

「そうそう、真紀ちゃん。稲葉は?」
「はい。会議の準備で、もう会議室の方へ行きましたけど」
「会議って、偉い人とか来るわよね?」
「はい。多分、来られると思いますけど」

じゃあ、ジャケット必要よね。

「どこの会議室?」
「えっと、ちょっと待ってください。第三会議室です」
「ありがとう」

あたしは、稲葉のジャケットを持って第三会議室へ急いで向かった。
会議室のドアは開いていて、中を覗くと稲葉が1人でパソコンの準備をしていた。
ドアを数回ノックする。

「稲葉。今いい?」
「あぁ、どうした?」
「これ、ありがとう。必要でしょ?」

手に持っていたジャケットを高く掲げる。

「あっ、忘れてた」

あたしは、中に入って稲葉の傍まで行くと…。

「何?」
「着せてあげる」
「いいよ」
「人の行為は、親切に受けなさいよ」
「はいはい」

稲葉は背が高いので、少し屈む形でジャケットを着せてあげた。
そして、あたしはポンっと彼の背中を叩く。

「頑張ってね」
「なんだよ。今日は妙に優しいんだな。雨でも降らなきゃいいけど」
「何、言ってるのよ。いつも優しいでしょ」

そう言いながら、あたしは会議室を後にした。
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