プリンな彼女
「馬鹿っ、泣くな。俺は、そんな意味で言ったんじゃないんだからっ」
「だってぇ…」

こんなことで、泣く女じゃなかったのよ。
ましてや、稲葉の前で…。
でも、仕方ないでしょ?勝手に出てきちゃうんだから…。

───え?
体が自分の意思とは無関係に勝手に稲葉の方へ向いていて…というか、彼に引っ張られていたという方が正しい。
稲葉の胸は、広くて大きくて…。

「馬鹿だな」
「馬鹿、言わないでよぉ」
「こんなことで、泣くやつがあるか」
「だって、こんな不味いもの食べさせて…」
「俺が教えてやるよ」
「教えるって、何を?」

ゆっくり顔を上げるとすぐ目の前に稲葉の顔があって…ニッコリ微笑んでいる。
───で、何を教えてくれるわけ?

「料理」
「えっ…稲葉が?料理?!」
「あぁ、これでも得意なんだからな」

───稲葉が料理…それも、得意なんて…。
信じられない…。

「嘘…」
「嘘じゃないよ。今度、美味い手料理食べさせてやるから」
「今度?」

───だって稲葉、もうあたしのことなんて…。
嫌いに…。

「ダメか?」
「ううん、そうじゃないけど…。ほら、稲葉もこんな料理の下手な女と関わるのなんて…」
「馬鹿だな」
「だ・か・ら・馬鹿馬鹿、言わないでっ」
「そんなわけないだろ」

そんなわけない…。
料理が下手だろうが、そんなこと。
不味いもの食べさせたって、泣いちゃうような可愛いやつなのに…離すわけ、ないだろう。
稲葉は、祐里香を抱きしめている腕に力を込めた。

「ありがと。じゃあ、今度教えて?」
「あぁ」
「それと…ねぇ、稲葉」
「ん?」
「離して」
「嫌だね」
「ちょっとっ、嫌だねってっ」

せっかくのチャンスなのに離すわけがない。
『好きだよ。祐里香』
稲葉は心の中でそう囁くように言うと、祐里香の額にそっとくちづけた。
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