プリンな彼女

story15

『この前、新井が作ったメニュ─にもう一度、挑戦してみよう』
そう稲葉に言われ、あたしは同じ食材を買って家で待っていたのだが…。

───稲葉ったら、遅いわねぇ。
どうしたのかしら?

土曜日の午後、稲葉に料理を習うことになっていた祐里香。
時間に正確な稲葉が、約束の時刻を既に30分も過ぎているというのにまだ現れない。
何か、急な用事ができたとか?
だったら、そうならそうと電話くらいしてくれればいいのに…。
もう少し待って来ないようならあたしの方から電話をしてみようと思っていると、玄関のブザ─が鳴った。

ピンポ─ン───ピンポ─ン───

───やっと来た。
走って玄関まで行くと、ドアを開ける。

「もうっ、稲葉ったら。遅いじゃないっ」

顔も見ずにいつもの調子で言ってしまったが…。
───ん?なんだか、様子が少し変…。
ちょっと顔色も悪いようだし、もしかして体調が悪かったの?

「ごめん、遅くなって。はい、これ」
「え?あっ、プリン」

それは、この前、一緒にコンサ─トに行った時に連れて行ってくれたお店のプリンだった。
───わざわざ、買いに行ってくれたんだぁ。
嬉しい反面、料理を教えてもらう身の自分にお土産を買って来るなんて…。

「店がいつもより込んでてさ、それで遅くなったんだ」
「ありがとう、これすっごく食べたかったの」

稲葉にとっては、この笑顔が何より見たかったもの。
少々、体調が悪くともこの日を心待ちにしていたのだから、体を押して来たのだった。

「それより稲葉、顔色が悪いみたいよ?どこか、悪いんじゃないの?」
「あぁ、いやそんなことないさ」

ニッコリ微笑む稲葉だったが、その顔はどう見ても無理をしているとしか思えない。
昨日も遅くまで残業していたようだから、疲れも出ているのかもしれない。
< 65 / 89 >

この作品をシェア

pagetop