プリンな彼女
「取り敢えず、中に入って」

すぐに稲葉を家の中に入れて、楽な体勢で座らせると、あたしは温かい飲み物を用意する。
───無理してるんじゃないの?
別に料理なんて、今日じゃなくてもいいのに…。

「はい、稲葉。これ、飲んで」
「ありがとう」

ミルクティ─の入ったカップを稲葉に渡す。
「美味い」と言って飲んでいる彼にホッとしたが、これでは料理なんてできるわけがない。

「熱は、ないみたいね」

あたしは稲葉の額に手をあててみたが、特に熱はなかった。
ということは、やはり疲れが出ていたのだろう。

「あ?何でもないって、言っただろう?」
「無理しなくていいわよ。今日は料理を作るの、止め止め」
「何だよ、せっかく来たのに。そっかぁ、新井は料理を作りたくないんだな?」
「はぁ?ちょっとねぇ、あたしが心配して言ってるってのにぃ。その言い草はないでしょっ」

───ったく、稲葉ったら、どうしてそういう考えになるわけ?
信じられないっ───っ─。
あたしは頭にきてつい、稲葉を後ろへ突き倒してしまい…。

「やだ、稲葉っ。どうしたのよっ!頭打ちゃったとかっ」

ぐったりして起き上がれない稲葉。
どうしていいかわからない祐里香は、ただオロオロするばかり…。

「どこも打ってない…けど、目の前が少しクラクラするんだ」
「えっ、うそっ…大丈夫なの?」
「大丈夫。こうしてれば、じきに治ると思う」
「ほんと?じゃあ、これ頭にあてて。今、毛布持って来るから」

側にあったクッションを稲葉の頭にあてがい、あたしはクロ─ゼットから毛布を出して持ってくる。
───やっぱり、調子が悪かったんじゃない。
何もプリンまで買いに行って、家に来なくてもいいのに。

額に手をあてて、静かに目を瞑っている稲葉に毛布を掛けてあげる。
思ったよりも睫毛が長い…。
なんて、観察している場合じゃないのよね?

冷たいタオルを稲葉の額にあててあげると、気持ちよさそうに眠りについた。
それを暫く見つめていたあたしは彼の手をそっと両手で握ると、早く良くなるようにと祈るばかりだった。
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