プリンな彼女
「なんとなく、そう思っただけ」
「ふううん」
「何、その言い方は」
「気になる?」
「はぁ?何で、稲葉の付き合ってた彼女のことなんか気になるのよ」

本当は気になったから聞いたんだけど、それを誤魔化すようにあたしは無心に包丁を動かす。

「したことないよ」
「え?」

───そうなの?てっきり、同じことをしてたんだとばかり思ってたけど、違うの?

「今まで付き合った子はさ、みんな料理上手だったからな。俺が出る幕はなかったわけ」
「げっ、悪かったわねぇ。どうせ、あたしは料理音痴ですよぉ」

───何だ、そういうこと。
やっぱりねぇ、世の女の子はあたしと違ってみんな料理上手なのね。
はぁ…。
こんな自分が、益々嫌になるわね。

「料理があんまり得意じゃない彼女ってのも、悪くないけどな」
「え、それ…」

───もしかして、こんなあたしでもいいって言ってる?
自惚れてるって…思っちゃうわよ?
あたし、単純なんだから。

「こうやって、一緒に作れるじゃん。普通はさ、彼女が上手ならその彼氏ってのは何も手伝うことなんてないんだけど、それもつまらないだろ」

「俺って、何でもデキル男だから」とやっぱり最後は俺様発言の稲葉だったが、きっとそれは彼の優しさ。

「稲葉って、優しいのね」
「あれ?知らなかったのか」

わざととぼけたように言って笑う稲葉、そんな彼が本当はとっても優しい人だということをあたしは知ってる。
知ってるけど…。

「そうなの?知らなかった」

でも、まだ言わない。
桜の花が満開に咲くまでに腕を上げて、稲葉に美味しいって言ってもらえるお弁当を作るまでは。

「何だよ。そこんとこ大事なんだから、きちんと認識しておいてくれないと」
「わかったわよ。それより、こんな感じでいいの?」
「あっあぁ、その調子で。っつうか、本当にわかってるのか?」

「なんか、いい加減な返事なんだよな」とブツブツ言いながらも、あたしの包丁裁きを褒めてくれた稲葉だった。
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