プリンな彼女

story17

稲葉先生を迎えての料理教室も始まって早、数週間。
あたしもかなり上達したと思うのよ。
これは別に自画自賛しているわけじゃなくって、本当の話なんだからね?

「ねぇ、稲葉」
「あ?どうした」
「もうそろそろあたしも、稲葉先生の料理教室を卒業できるんじゃない?」
「何だよ、その稲葉先生の料理教室って」

勝手に祐里香が付けたのであろうネ─ミングがなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。
しかし、彼女の言うように稲葉も驚くくらい腕は上達したと思う。
元々、料理の才能はあったのだが、ほんのちょっとしたことでうまくできなかっただけなのだろう。
でも、稲葉にとっては嬉しいような、寂しいような…。
二人の時間が楽しかっただけに卒業せず留年して欲しいと言ったら、彼女は何と言うだろうか?

「だって、稲葉は料理の先生でしょ?だから、稲葉先生の料理教室なの」
「ふううん、そっか」
「で、どう?あたし、卒業できそう?」

そんなに卒業したいのか…。
そうは思っても、彼女に目をキラキラ輝かせて言われてしまえば、ここはそう言うしかないかぁ…。

「じゃあ、そろそろ桜も咲き始める頃だし、約束した弁当持参で花見に行って、その弁当の出来次第で卒業できるかどうか判断するよ」
「わかったわ、任せて。絶対、卒業してみせるもん」
「あぁ、先生としてはそうなることを願ってるよ」

本心ではないけれど、彼女としてはそこで“卒業”と言わせたいに違いない。
彼女が作ったお弁当を持って、一緒に花見に行けるだけでも幸せだと思わなければ。
「それじゃあ、今日はこれを作ってみようか」と用意してきた本のペ─ジを稲葉が指さすと、彼女は明るい声で「うん」と言って微笑んだ。
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