プリンな彼女
「ちょうど、満開ね。すっごく綺麗」
「そうだな。天気も良かったから、ここ数日で一気に咲いたんだろう」

少し早いかもしれないと思っていたが、天気がいい日が続きここ数日で一気に咲いたようだった。
そんな桜の木を見上げながら歩いている祐里香を見つめる稲葉には、もちろん花も綺麗だったが、彼女の美しさに比べたら到底及ばないと思ってしまう。
自然に彼女の手に触れていたが、嫌がられていないことにホッとする。

「やっぱり、もういっぱいね。お弁当食べる場所ないかも」
「この先に穴場があるんだ。そこなら空いてると思う」

前に来た時に見つけた穴場があって、そこは狭いせいか、あまり人がいない。
二人で花見をするには、ちょうどいい場所だろう。

「そんなところ、あるの?」
「あぁ、前に来た時に見つけたんだ。ほら、あそこ」

稲葉が指差すところは確かに人が少なくて、場所も空いている。

「ほんと、すっごい穴場」
「だろ?」

手を繋ぎながら満開の桜の下を歩く、こんな日が一度でも来るとは思わなかった。
ずっと彼女を想い続けて来た稲葉には、夢のように思えてならない。

「ここでいい?」
「あぁ」

ちょうど大きな桜の木の下が空いていて、あたしが持って来た手提げバックの中からビニ─ルシ─トを取り出す。
「こんなものまで持って来たのか?」と稲葉に驚かれたけど、これは必需品じゃないねぇ。

「はい、おしぼり」
「ありがとう。これ、何で2つあるんだ?」

道理で重いと思ったが、ステンレスのボトルがなぜか2つあった。

「これ?一つはお茶で、もう一つは甘酒」
「甘酒?」
「そう。稲葉、甘酒嫌い?」

嫌いではないが、祐里香がこんなものを飲んだら、酔っ払うんじゃないかとそっちの方が心配なだけで…。

「いや、嫌いじゃないけど。お前、飲んで平気なのか?」
「甘酒くらい、平気よ」

本当に平気なのか?
と思ったが、この雰囲気は悪くない。
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