プリンな彼女
「ねぇ、稲葉」
「あぁ?」
「あのね、あの…あたし…」

周りに誰もいないことを確認してから、勇気を出してあの時のことを聞こうと思ったその時、向こうで稲葉を呼ぶ声が聞こえる。

「ごめん、電話みたいだ」
「コピ─は、あたしが持っていってあげるから」
「悪い、頼むわ」

───あぁ…聞き損っちゃったじゃない。
ちょうど終わった稲葉の分のコピ─をトレ─から取ると、あたしは自分の分をセットしてスタ─トボタンを押した。

+++

「稲葉君、どうした。さっきから、溜め息ばかり吐いて」

結局、祐里香に気持ちを確認することができなかった稲葉は、残業時間に入っても溜め息ばかり。
それを見ていた課長の小山が、声を掛けた。

『あのね、あの…あたし…』
さっき、彼女は何を言おうとしたのだろうか?

「いえ、何でもありません」
「そうか?僕には、ちっともそんなふうには見えないけど」

そう話しながら、小山課長はノ─トパソコンの電源をおとしてパタンと蓋を閉じる。

「ほら、何やってるんだ?早くパソコンの電源をおとして」
「え?」

「そんなんじゃ、仕事にならないだろう?久し振りに飲みにでも行くか」と稲葉にも仕事を切り上げるように小山課長は促す。
確かに課長の言うように、これでは仕事にならない。
稲葉は「わかりました」とパソコンの電源を落とすと、課長と共にオフィスを後にした。
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