プリンな彼女


「どうした?新井さんと、何かあったのかい?」

居酒屋でビ─ルのグラスを交わした二人。
課長には稲葉の溜め息の原因が祐里香であることは、とっくにわかっていたらしい。

「彼女に好きって、言われました」
「え?」

てっきり、喧嘩でもしたのかと思っていた小山は少々拍子抜け。
というか、これは溜め息を吐くような話ではないように思うのだが…。

「なんだ、そうなのか。良かったじゃないか」
「それが…」
「それが?」
「あいつ、そう言った後に酔っ払って…。恐らく、自分が言ったことを覚えてないと思うんです」
「どうしてまた」

事の経緯を話すと、「そういうことだったのか」と小山課長は妙に納得したようだ。
しかし、せっかく彼女の方から告白してくれたというのに不運というか何というか…。

「どうしたらいいんでしょうね」
「今度は、稲葉君から彼女に告白してみたらどうかな?」
「俺が…ですか?」
「そう。もう一度、言ってみればいいよ。お互いの気持ちはわかってるんだから、そんなに悩んでないで何度でも言ったらいいさ」
「課長、他人事だと思ってませんか?」

───そんな、何度でもなんて…。
言えれば苦労しないって。

「僕は、自分から言えなかったから」

小山課長は、真紀に押し切られるようにして付き合い始めた。
男としてそれはどうなのか?勇気がなかった自分を恥じる部分もあるし、できるものなら自分から彼女に言いたかったという気持ちが、どこか心の片隅にあるのかもしれない。

「課長」
「新井さんをしっかり捕まえるんだよ」

課長の言葉に深く頷いた稲葉は、ビ─ルをグイッと飲み干した。
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