プリンな彼女
「そういうことなら」
「それと、稲葉課長補佐の会費は、みんなの5割増しだから」
「はぁ?何で、俺だけ5割増しなんだよ」

───そこ、違うだろう。
何で、俺だけ5割増しなんだ。
昇進祝いなんだろう?
だったら、みんなが出してくれてもいいくらいなのに…。
どうにも納得できない、稲葉。

「当たり前でしょ?稲葉は、出世したんだから」

「これからたくさん、お金をもらうんだもの」と言われてしまうと、返す言葉がない。
部内で飲み会をする時も、部長、課長、課長補佐…と細かく会費に差が付けられる。
とはいっても、課長補佐など名ばかりで、仕事の責任は重いが給料となると5割増しにはならないと思うのだが…。

「なんか、うまく嵌められてないか?」
「そんなことないわよ。主役がいないと話にならないから、絶対出席してね」

そう言うと祐里香は、「じゃあね」とその場を去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、稲葉は『絶対、嵌められてる』と思ったが、それでも祐里香と一緒に飲むことができるなら、それはそれでもいいかなと。
───でも、5割増しは痛いだろ。

+++

金曜日、時刻は18時少し前。
会社近くの欧風居酒屋の個室に若い男女が十数人、既に集まってワイワイ、ガヤガヤ、話に花が咲いているが、まだ本日の主役は到着していない。

「稲葉、行こう?始まっちゃうわよ」
「あぁ。新井、先に行ってていいぞ?俺さ、お客さんからの回答待ちなんだ。連絡が来たら、すぐに行くからさ」
「えっ、大丈夫なの?」
「すぐに連絡するって言ってたから。ほら、新井も早く行かないと始まっちゃうぞ?」

そうは言われても、稲葉を一人置いて行くのはどうなのか…。
昇進は口実でとは言ったけれど、あたしとしてはやっぱり稲葉の昇進をお祝いしたいわけよ。
なのに、彼が仕事で行けないとなるとねぇ。
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