プリンな彼女
「じゃあ、もうちょっとだけ待ってる」
「俺のことなんかいいのに。食べ物、なくなっちゃうぞ?」

口ではこんなふうに言っても、待っていてくれるという祐里香の気持ちが嬉しくないわけがない。
いっそこのまま仕事で行けなくなって、二人っきりになれた方がいいとさえ思ってしまう。
───あっ、でも会費は取られるんだろうなぁ…。
あいつら、ちゃかりしてるし。

「ちょっとだけだから」
「わかったよ。あんまり遅くなるようだったら、先に行っていいからな」
「うん」

取り敢えず稲葉は、回答を早くもらえるようにもう一度顧客先に電話を掛けてみることにした。



「よっ、ご両人」「遅いぞ、稲葉。新井さんも」

なんとか30分ほどの遅れで会に参加することができた二人だったが、一緒に店に入って来たことでみんなに散々冷やかされた。
「何やってたんだよ─、待ちくたびれたぞ」と、あちこちからそんな声も聞こえてくる。

「ごめん」「ごめんね」
「まっ、とにかく乾杯しよう。みんな二人が来るのを待ってたんだ」

「すみませ~ん、ビ─ルお願いします」とすぐに店員さんにビ─ルを頼んだのは、中川。
今回の幹事は中川だったのだが、彼の言うようにみんな食べ物にも手を付けずに祐里香と稲葉が来るのを待っていてくれた。

「みんな、ごめんね。今夜は稲葉課長補佐がスポンサ─になってくれるから、ガンガン飲んでね」
「はぁ?新井。何、勝手なこと言ってんだよ。5割増しの話しか、聞いてないぞ?」

───オイオイ、勝手なこと言わないでくれよぉ。
ただでさえ、給料日前なのにぃ…。

「はい、みなさん。お聞きの通り、今夜は稲葉課長補佐がスポンサ─になって下さるそうなので、思いっきり羽目を外して飲みましょう」

心底困り果てている稲葉を他所に司会進行役の中川も祐里香に合わせてこんなことを言うものだから、周りからは「わ~い」とか「ヤッタ!」という、歓声が上がる。
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