プリンな彼女
「では、みなさん準備はいいでしょうか?え~それでは、稲葉君の課長補佐昇進を祝して、また、これからも同期仲良くやっていけますよう願って、カンパ~イ」

思い思いにグラスを合わせ、ビ─ルを一気に飲み干す。
仕事の後の一杯は格別…約1名、稲葉を除いては…。

「ほら、稲葉。飲んで、飲んで」

スポンサ─にさせられて、ビ─ルなどゆっくり飲んでもいられないのだろう、稲葉は半分くらいしかグラスが空いていない。

「あっ、あぁ…」
「あんなの冗談に決まってるでしょ?もし、そんなことになってもあたしが半分もってあげるから」

スポンサ─っていうのは、あの場を盛り上げるために言っただけ。
みんなもそれくらいわかってる。
もしも、本気にする人がいるなら、あたしが半分もってあげるわよ。

「だから、ほら飲んでよ。グィッと」
「あぁ」

その言葉を信じていいのかわからなかったが、稲葉はグラスを一気に空けた。
───でも、彼女のグラスは…あれ?ウ─ロン茶。

「新井こそ、どうしたんだ。体調でも悪いのか?ウ─ロン茶なんて」
「これ?あたしは、今夜は飲まないの。稲葉に迷惑掛けるといけないから」
「心配しなくても、ちゃんと家まで送ってやるよ」
「ううん、今夜はあたしが稲葉を連れて帰るの。だから、いっぱい飲んでも平気よ?」
「えっ」

祐里香がウ─ロン茶なのは、稲葉に迷惑を掛けるということよりも、今夜は彼に思いっきり飲んでもらうためだった。
お酒が強いということもあったけど、多分あたしのせいでセ─ブしていたんだと思うから。

「だから、飲んで」
「あぁ、ありがとう」

───彼女が連れて帰ってくれるなら、そんなラッキ─なことはないけど…。
祐里香はニッコリと微笑むと、ピッチャ─から稲葉のグラスにビ─ルを注ぐ。

そんな祐里香と稲葉をみんなが微笑ましく見ていたことを…二人は知らない。
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