プリンな彼女
「あの時のあいつ、怖いくらいにマジだった。新井さんのこと、すっげぇ好きなんだって。だから、付き合うようになって良かったなぁって思った」

───中川君にまで、迷惑掛けて…。
稲葉がじれったいのか、あたしが鈍感なのか…。
今だって、付き合っているっていうのはちょっと語弊があるし…。

「そろそろ、帰った方がいいぞ?他の連中は、朝まで飲むつもりらしいから」

目の前でカラオケを歌っているというか、怒鳴ってると言った方が当たっている人達は、とても帰る気配がない。
稲葉もこのままにしておけないし、中川の言うように先に帰った方がよさそうだ。

「うん。じゃあ、そうさせてもらう」
「俺、タクシ─呼んでもらうよ」

何から何まで中川の世話になって申し訳ないと思いつつ、稲葉を見ればスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。
───今度こそ、ちゃんと好きって言わないと…。



「稲葉、大丈夫?取り敢えず、ス─ツは脱いで。シワになるといけないから」

結局、稲葉を彼の家には連れて行かず、あたしは自分の家に連れて来てしまった。
朝起きて、『何で、新井がっここに!』とか、騒がなければいいけれど…。

「ねぇ、ったらぁ」

───ダメかぁ。
ビクともしない稲葉にいくら話し掛けても、無理というもの。
仕方なく、あたしは稲葉のネクタイに手を掛けて着ていた服を脱がせていく。

『祐・里・香』
「えっ、何?稲葉」

あたしは名を呼ばれたような気がして稲葉に問いただしてみるものの、彼は目を瞑ったままで寝息を立てて眠っている。
───でも、確かに今、『祐里香』って、呼んだわよね?
気のせいかもしれないけど、あたしは勝手にそう決めると稲葉のううん、航貴の唇に自分のそれを重ねた。
ほんの一瞬、羽が触れるようなキスだったけど、自分からするのはなんだか恥ずかしい。
すぐに彼から離れると、あたしはシャワ─を浴びることにした。
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