迷姫−戦国時代

あの後も暫く彼の熱弁は続いていた


「緑が城を護れとの命さえ無ければ今頃某は素敵な女子(おなご)に何万と出会えたのだろうか。この時間さえ惜しくて止まない」

彼の表情は見る見る内に豊かになりあわよくば神々しく輝いて見えるという幻覚まで出てきたその反面、五郎の表情はこの短時間の間で精神を大分やられた様で彼の表情は最早活気など無く見るからに窶(やつ)れていた


五郎は何故直ぐに去らなかったのだろうと後悔していた

どうしよう旦那、オイラ旦那の元に無事に帰る気力が無いや

そう思いながら五郎は視点の合わない目で遠くを見つめていた



「そういえば面白い話を聞いた」

「そうなんだー・・・」

唐突に話す笹木に五郎の素っ気ない返答に笹木は気にもせずに話を続ける

「それに緑が関わっていると某は考えとる」

「え、何を」
今まで話を流していた筈の五郎だが、主の話しになるや否やたちまち覚醒し会話に参加することにした

「以前某が城に着き城の主が居なくなった此の城を良く知るために隅々まで巡回したのじゃが可笑しな事に有るものを見つけた」

そう言い懐から何かを出してそれを五郎に見せた

「これをよく見よ」

目の前に出されたのは何の変哲も無いただ美しく細工が施された櫛であった

「・・・櫛がどうしたのさ?」
しかし櫛と圭吾とではどう繋がりがあるのかさっぱりだった

「これの合った場所が何の変哲の無い桃いの間の部屋に落ちてた。どう見てもこれは女中ごときが手に出来る様な額の櫛ではない。女中にはあそこは亡き当主の妹君である十年前に亡くなった姫の部屋だと聞いたんじゃ」

「そうなんだ」
外見は平然としてるが内面ではこの男が何を言い出すのか緊迫していた

そう・・・あの櫛は間違いなく姫さんのだ

きっと何かの拍子に落ちたのかもしれない

旦那には姫の事は内密にしとけと言われてる為に今の状況はかなり難である

この男は、何を考えてるのか全く予想出来ない

女に現を抜かす男、今己の目の前にいる男。一体どちらが誠の姿なのだろうか・・・




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