迷姫−戦国時代
杉藤は楠木の行動を様子見していたが相手は一行に動こうとせず、二人の間に静寂が暫し続いた
だがその静寂を切ったのは勿論・・・
「ククッ、やはりそうか、そうだったのか!」
狂ったように笑う楠木に杉藤も漸く口を開いた
「要件は終わったんだ。俺は退場させてもらうぞ」
「待て。その者は男か?それとも、女か?」
立ち上がろうとした杉藤に楠木は寸での所で呼び止めたが杉藤は何事も無いように立ち上がり部屋を後にする
だが襖の前で歩みを止め此方を睨んでいるだろう男に切れ長の鋭い目を向け嘲笑う
「俺が得にならない事を態々あんたに教えてどうなるんだ。失礼する」
ピシリ
襖の閉められた音と共に楠木は再び笑い出した
「フッ、そう簡単にはいかぬか。噂に聞いてたがあれ程肝の据わった奴だとはな。五加木の若僧・・・実に面白い」
「・・・万助」
襖の向こう側から万助の気配を感じ取れば中に入れと告げる
「どうしたのじゃ」
「滝沢を千紫に向かわし生き残りの情報を集めさせろ」
「御意」
気配が消えれば楠木はその場から立ち去り廊下に出て自室へと向かう
途中空が紅く染まり夕日が沈んでるのに目が止まった
「もう夕方か・・・」
朱はこの国の象徴でもある赤色
そう呟けば視線を戻し早々に歩き出していった