恋花~桜~
保科さんが去った後、入れ替わるように小野が俺の席に来た。

「おいおい!な、なんだよ…今のは」

「え?何が?」

そっけない俺の答えに苛立ったのか、小野は俺に顔をぐっと近づけてきた。

「何がじゃないよ!なんで保科さんとお前が仲良くしゃべってるんだよ!?」

「あ…それはな…」

俺は昨日のいきさつを話した。俺の話をいちいち大きく頷いて聞いていた小野は、頭を抱えながら言った。

「マジかよ…何の前触れもなく声をかけられるなんて…これはもしかして!」

テンションが上がりそうな小野に、俺はあっさりと引導を渡した。

「単なる部員集めだってさ。俺がサッカー部やめたみたいだから声かけたんだって」

頬杖をついていた小野が、身体ごとガクッとした。

「なぁんだ…でもさ、クラスのマドンナと仲良くなれるなんて最高じゃんか!」

「別に俺は保科さんのこと何とも思ってないぞ?」

「うそだ!あんなにかわいいんだぞ!俺ならイチコロだぜ」

「なんでだよ。お前彼女いるだろうが!!」

小野には彼女がいた。一つ年下で、同じ部活だった子だ。見た目はかわいいのだが、性格は凶暴と言えた。

キーンコーンカーンコーン♪

チャイムが鳴った。小野があわてて自分の席に戻った。その時だった。

《ん?》

俺はいくつかの冷たい視線を感じた。気のせいだと思っていたが、それは気のせいじゃなかったんだ。それに気づいたのは、もう少し後のことだった。



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