恋花~桜~
いじめ
俺の高校生活は一変した。

女っ気のなかった俺だったが、休み時間の度に、俺の席には小野と保科さんが集まってきて、お喋りをするようになった。

いつも決まって話を切り出すのは保科さんだった。

「ね~!高田君、さっきの数学の時間、寝てたでしょ?」

「いや、眠かったけど、がんばってこらえてたよ」

「うそ~!だってシャーペン何回も落としてたじゃない」

「2~3回だよ~」

俺の答えに呆れ顔の保科さんは、腕を組みながら落ち着いた声で言った。

「それだけ落とせば大したものよ」

《な、なんだその切り返しは…》

「大したものって、そんな…」

そしてここから美少女の演技が始まるのだ。

「かわいそうよ…(シクシク)」

《泣きまねだと!?どういうことだ》

「な、何が?どーした?」

「ご主人様に何度も捨てられるシャーペンが…」

「いや…捨てたわけじゃなくて…」

すると保科さんは、俺の筆箱からシャーペンを取り上げた。そしてシャーペンを手招きして、自分の頬に当てた。

「そうか~私のところがいいのね~よしよし」

なんと、シャーペンに頬ずりし始めたのだ。

《あぁ…シャーペンになりたい!》

一瞬そう思ったが、俺だって負けてはいない。

「シャーペン君!戻ってくるんだ!じゃないと、保科さんに芯を減らしまくられるぞ!」

俺たちのやり取りをじっと聞いていた小野が、急にするどいツッコミを入れた。

「それだけ保科さんの方がノート書いてるってことだな」

「あはっ!」

「あはは!」

「あっはっは!」

保科さんは両手でお腹を抱えて笑う。これが彼女の笑い方なのだ。

清楚で物静かな美少女だと思っていた保科さんは、その見た目とは裏腹に、とてもお喋りで明るい女の子だった。

俺もいったん慣れてしまえば持ち前の口数の多さで、まるで夫婦漫才のように話が盛り上がる。俺の席は、いつも笑いで溢れていた。

だから俺は休み時間が待ち遠しくなった。毎日がとても楽しくなって、学校にいる時間がかけがえのないものになったんだ。


でも・・・
< 16 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop