【短編】LIVE HOUSE
BAND MAN
コートを羽織って、再び重い扉を抜けた。
地上へと続く階段を一段一段のぼるにつれて、外の冷気が強くなっていく。
その時―――外で、わぁっと歓声が上がった。
何だろうと思い、残りの数段を駆け上がると、人だかりができていた。
「あっ」
あたしは小さく声を上げた。
人だかりの中に、一際目を引く、金色の髪の持ち主を見付けたのだ。
「お疲れ!」「新曲よかったよ」などという声が聞こえてきたことから、バンドメンバーが楽屋から出てきたところだとわかった。
あたしの足は、張り付いたように動かなかった。
本当は、もっと近くであの人を見てみたかったのに。
(人混みにまぎれて話しかけてみる?)
(勢いにまかせて「すごくかっこよかったです」と言ってみる?)
でも、考えれば考えるほど心臓がドクドク脈打って、息も凍るほど寒いのに、顔だけがやたらと熱い。
そうこうしているうちに、人混みに動きが出た。
(あ!行っちゃう…!)
あたしは思わず足を踏み出した。
けれど、次の瞬間、再び地面に張り付いた。
「タイラ君!打ち上げ行かねぇの?」
誰かが声を上げて、
「今日は遠慮しときます。お疲れっス」
そう言いながら、人混みを切り裂いて、一人の少年が現れた。
(あの人だ…!)
金髪のその人は、楽器のケースをかついで、厚手のパーカーの帽子をかぶりながら、人の流れと反対の方向に歩き出した。