大切なもの
どのくらい寝てたんだろう。
初めてこんなに安心して眠れた気がする。


目を開けると
僕の前には見たことのない世界が飛び込んできた。

明るい電気の下には大きな机。
周りは見たことのないものばかりで溢れていた。

知らない場所にいるのに
不思議と怖いとは思わなかった。

隣にある椅子には僕をだっこしてくれた女の人がいた。
その隣には女の人と仲良さそうに
手をつないでいた男の人。

2人は話をしながら
隣同士に座っていた。

そんな2人を最初は見ていたんだけど、
なんだか寂しくなって僕も椅子に上ることにした。

椅子に上ると、女の人のやさしい手が伸びてきて、
僕を撫でてくれた。
すぐに男の人の大きな手も伸びてきて
2人で笑いながら僕を撫でていた。

幸せそうな二人を見ていると僕も幸せな気分になれた。
こんな気分は初めてで胸がとってもくすぐったかった。


『ボス』

女の人が急に言った。
意味がわからず驚いていると、
今度は男の人が、
『お前は今日からうちの子供だ。俺たちには子供が出来ないけど、お前が来てくれて子供ができたみたいだ』
って言った。
お姉さんはそれにつられたように、
『あなたの名前は今日からボスだからね。私たちの子供になったんだよ』
といった。
二人は笑顔だったけど、どこか寂しげで…
僕は『この二人を守らなきゃ』
って思ったんだ。


こんな感じで僕はこの家の子供になった。
子供ができなくて、
寂しかった2人と
一人ぼっちで寂しかった僕との生活が始まった。
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