嘘、
「ユエちゃんと会った入学式の日もね、女子にまとわりつかれてたから隠れてたのさ。」
思い出したくもないことを思い出させる。
こいつは私を怒らせる天才か。
「そしたらそこに可愛い女の子が!掴まえるでしょ?」
「掴まえられた方の身にもなってよ。アンタのせいで私は迷惑してんのに。」
「……俺って先輩なはずなのにそういう口調されてないよね?」
「……別にいいでしょ。」
「俺は先輩です。」
「…………別にいいじゃないですか。」
「あとは表情なんだけど、まぁいっか。」
変な趣味でもあるのか、お前は。
別にどう呼んでもいいでしょ。ったく。
とかなんとか変な輩に絡まれてる間に始業をつげるベルが鳴った。
私はハッとして席を立って図書室から出ようとする。
それを腕を掴んで彼が制する。
「離して。」
「ダメ。」
「授業出なきゃ。」
「いいじゃん、まだ俺は話したいことがある。」
ふざけないで、
言おうと思ったけど、腕を掴む力が強くなる。
痛い、離して。
でも、表情も怖い。
真剣。
何してんの、何でいつものようにヘラヘラしないの。
何でそこで真面目な表情をしなきゃいけないの。
バカじゃないの。
「……今からの授業、どうせ自習だから。」
と呟くと、彼の腕の力はまるで嘘のように弱くなって、
更にするりと解けて、表情も柔らかくなった。