嘘、
「それとさ、ここっていつも開いてないでしょ。」


そういえば。

私は頷いて返事をした。

彼女はニッと笑って金網から手を離して目の前までやってきた。


「開いてないとき、私がいるとき。幸いここの鍵って屋上から閉められる仕組みだし。」


これで謎は解けた。

でも別の謎は解けない。


「あ、逆にアンタの名前聞いてなかった。なんて名前?」

「天崎結柄。」

「……天崎?」


そのときだった。

初めて彼女の顔が良くないものに変わったのは。


「……もしかして浩平と仲良くしてる天崎?」


一瞬浩平が誰か分からなかったが、

数秒考えてようやく誰か分かった。


「……仲良くしてるつもりはないけど。」

「浩平からよくアンタの話聞くよ。まさかアンタだったとはね。」


貴樹浩平、どうして私の話をするの。

どうして他の人に私の名前まで教えているの。


「……ね、アンタは浩平のこと好き?」

「嫌い。」

「即答か、アンタ嫌いじゃないよ。」


ようやく彼女の顔が先ほどまでのものになったように見えた。


「私さ、好きな人がいるの。」


誰もいない静かな屋上で彼女は言った。


「そいつはね、誰にでも優しくて、かっこいい三年生。」


どうでもいい話だ。


「貴樹浩平、って言うの。」


なのに、こんなにも耳を傾けようとしている。


「ユエ、恋の手伝いとかしてくんない?」


私には関係のない話なのに。
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