嘘、

「あ、発見!浩平!」


彼女は大きく手を振った。

それに気付いた貴樹浩平も近寄りながら、微笑んだ。


「またこの二人だね。」

「だって仲良しだもーん。」


彼女は猫のような、チョコレートのような、

そんな甘い声で答える。

じゃれ方は本当に猫のようだった。


「あ、ユエちゃ――」

「浩平聞いて!あのね、私ね、この前の小テスト100点取ったんだよ!?

 凄くない!?」


その場から立ち去ろうとする私を彼は呼び止める。

それを彼女は繋ぎ止める。

この光景、もう何度目だろう。

そして私はそのまま帰る。気にせずに。


それが今までだった。



「……ごめん、秋絽。ちょっとどいて。」


少々キレ気味の声で彼は彼女に言い放った。

彼女もその声のトーンの違いに気づいたのか、笑いは消えていた。

私は驚きでその場からすぐさま動き出すことはできなかった。

彼は私の方へ近付いて、そのまま動かなかった私の腕をとって、


「ちょっと言いたいことがある。来て。」


とだけ言い捨て、私の了解を聞かずにその場から私を連れ出した。

私は何も言えずにいた。

何とも言えなかった。

何故なら、変な感情がまた現れたから。

驚きと、

謎と、

そして、

少々の喜び。

どうして?

どうして私は喜んでいるの?

ただ手を引っ張られて連れて行かれてるだけなのに。

しかも相手は嫌いな人なのに。

どうしてなんだろう。



「……なんでいつもこうなるわけ……?」


もちろん、彼女の拳を握りしめて呟いたこの言葉、

私は知らない。
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