嘘、
私はただ、貴樹浩平に連れられるままでいた。

でも、ようやく気付いて私は咄嗟に掴まれた腕を払った。


「何すんの!?」

「言ったじゃん、話があるって。」

「話って何……私は早く教室に――」


「秋絽には近付かないで。」


早く教室に帰らなきゃ。

そう言いかけたが、遮られた。

その内容が驚くべきものだった。


「……どうして?」

「秋絽に利用されるだけ。というか今利用されてるでしょ。」


即答で否定はできなかった。


「……俺、知ってるから。」

「何を?」

「中学のときもそうだった。あいつ、俺が声かけた子みんなと仲良くなってる。

 今のユエちゃんみたいに。」


まぁ、そんな感じはしていた。

そういうことをしていそうな空気が最初はあったから。


「そんで、利用してそのままポイ。そんな奴ってこと、知ってるから。」

「……ちょっと待って。じゃあ先輩の好意は?」

「昔から一緒にいて気付かないわけないじゃん。

 俺の前でだけ女の子ぶってるとこも知ってる。」

「じゃあどうして止めないの?」

「もし、俺があいつをふるとさ、結局は他の子に余計八つ当たりする。

 そういう奴だから。だから、お願い。ユエちゃん、秋絽と仲良くしないで。」


彼の表情は真剣だった。

いや、

真剣〝そう〟だった。

そこを言い換えたのは、

少々の違和感を感じたから。

どうしてだろう。

彼が私に優しくしようとするたび、

そこに何か違和感を感じてしまう。

私が優しさに慣れていないだけなのか、

彼が優しくすることに慣れていないだけなのか。


「言いたいことはそれだけ。俺、ユエちゃんが利用され続けるの、見たくないから。」


彼はそれだけ最後に私に言ってそこから消えた。

利用され続けるか、避けるべきか。

この問いに悩んでしまうのは、

彼の発言に違和感を感じたから。

きっとそれ。
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