嘘、

「いやー、新鮮だね。」


笑顔でニコニコ見つめてくる。

嫌だ、怖い。

癖で顔を逸らす。

それが気に食わなかったのか、

わざと顔をじっと見つめてくる。


「そういえば自己紹介まだだったね。」


自己紹介なんてどうでもいい。

どうせこれ以上関わらないんだから。


「俺、貴樹浩平っていうの。ピチピチの3年生!」


貴樹浩平ってどっちも名前みたい。

3年生って先輩じゃない。

下手なこと言えない。


「……なんで何も言ってくれないの?」


なんでってなんで?

普通知らない人とは話を易々としないでしょ。


「……あ、もしかしたら俺のこと怖い!?」


その通りです。


「そっかー。んじゃ、これでどう?」


覚えてる。

そのときのコイツの笑顔で不敵すぎたから。

逃げるなら逃げられた。

足掻いて足掻いて足掻けば。

でも、抵抗できなかった。

怖かったからっていうのもある。


誰も見ていない、

誰も喋らない、

静かな静かな空間で、

たった2人だけの空間で、

その2人が1つになったその瞬間。

今までに触れたことのないような柔らかな唇と

まるで自分のものじゃないような唇が

触れ合う、





それが無駄に長いように感じた。





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