嘘、
パチンという頬をビンタする音が響いたのはその数秒後。
そして、私が泣きそうなほどショックを受けているということに
気付いたのもその数秒後。
ちょっと良かったことに、涙は出なかった。
「……緊張ほぐれるかな、って思って。」
「……やってもいいことと悪いことくらい分からないの?」
「……初めて喋った!」
私の質問に答えてよ。
「確かに今のは悪いかと思った。でもさ、良かったよ。」
私は全く良くないんだけど。
「普通の女子なら今の喜ぶから。」
「はぁ!?」
と叫んでつい口を手で押さえる。
すでに遅いけど。
あまりの驚きでつい。
「今のリアクションは初めて。ちょっと感動した。」
えへへって笑う。
あぁ、この笑い方可愛いかも。子供みたい。
「そういえば君の名前を教えてもらってないんだけど。」
誰が言うか。
「……天崎さん。」
「な、なんで……!?」
「いや、スリッパに名前が。」
……本当だ。
丁寧な字で天崎。私の苗字。
しかも書いたの私自身だし。
恥ずかしい。
「天崎……天崎……恵美!」
「結柄!」
……今気付いたけど、私、上手く情報出させられてない?
「ユエちゃんかー。友達のゲームのキャラに居た気がする。」
「あっそ。」
「……冷たくない?」
「うるさい。」
「……俺、図書委員長だからさ。」
「えぇ!?」
「あ、驚いた。」
「……」
「だからさ、毎日居るよ。毎日ここ居るからさ。」
またさっきの笑顔で笑う。
私はそのまま走って図書室を出た。
後から鏡見なきゃ。
あれだけ人と話したのは久しぶりかもしれない。
だから顔赤いかもしれない。
アイツと話したからじゃない。
きっとそうだ。
恥ずかしがりやか、あのキス。
それしかない、というかキスが絶対原因だ!
今度はトイレへ走っていった。