嘘、
トイレへ走って鏡で顔を確認する。

顔は赤い。

誰にも見せたくない、恥ずかしい。

と思った矢先に女子の団体がトイレに入ってきた。

どうやら入学式は終わったようで、同じ色のスリッパを履いていた。


「でさー……って、あ、ごめーん。」


その中の一人が私とぶつかる。

彼女は軽く笑いながら謝ったけど、私はそれどころじゃなくて、

無言で顔を逸らした。


「……何あれ、感じ悪。」


分かってるよ。

でも赤い顔はちょっと見せたくないし、

正直感じ悪いのはアンタだよって思っちゃったり。

でも思ったままで口にしない。

口にしたら嫌われちゃうから。


『ユエって口悪くない?』

『確かにー。せっかく私たちが好意で仲間に入れてあげてんのにさー。』


嫌われちゃうから。



「あ、ユエちゃん、見ーっけ。」

「!?」


ボーっとしていると背後からいきなり声が聞こえた。

びっくりした。

振り向くとさっきの先輩。貴樹浩平。

変わらない笑顔でヘラーってしてる。


「いきなり走るからびっくりしたんだぞ。」

「そ、そんなのあんたに関係ないじゃん。」


顔は逸らしながら言う。

それに反応して彼は私の顔を覗き込もうとしながら聞いてきた。


「そんなにさっきのがショックだった?」

「当たり前じゃない!」

「……初キスでしょ。」

「!?」


まさに図星。

勘良すぎ。変なところで。


「だったらラッキー。ユエちゃんの初めてゲット!」

「へ、変な言い方やめてよ。」

「あー、ユエちゃんやらしー。」

「……もういい。」


このままじゃキリがない。

ずっとからかわれてばかり。

冗談につきあっていられるほど私はお人好しじゃない。

私はそのまま廊下をずんずん進んでいくと、彼はこれ以上何も言ってこなかった。

諦めたのかと思ってチラリと振り向いた。

そこには私が怒っているとも知らず、平気な顔して手を振ってくれていた。

もうやだ、この学校生活。
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