嘘、
一番放ってほしい相手はコイツだったこと、忘れていた。


「……ユエちゃん、どうしてさっき無視したの?」


クラスの人の陰口があった後、

次の移動教室のために私は一人で廊下を歩いていたところ、

運悪く貴樹浩平とすれ違ってしまった。

彼はすれ違う私の腕をふんわり掴んで、

でも言葉は少し厳しめに言ってきた。

周りの女子は私たちを見ていた。

やだ、この空気。


「無視なんかしてない。話しかけられてもないし。」

「さっき手振ったでしょ?あれ、ユエちゃんになんだけど。」


そういえばさっき、クラスの女子がキャーキャー騒いでたな。

手を振ってくれたって……あれは私にだったのか。普通分からないって。


「……無視してごめんなさい。だから手を離してください。」

「その言い方、謝ってる気が全くないんだけど。」


そりゃそうだよ。

早くこの空気の中心にいたくない。

私は変に目立ちたくない。

変に思われて下手に女子から因縁買うとか勘弁なの。

だから離してよ。

……なんていうわけでもなく、いう気もなく。


「……じゃあどうしてほしいの?」

「これからはちゃんと応えてほしいな。」


きた、王子スマイル。

これにどれだけの女子がやられたことか。

私は論外だけどさ。


「分かった。だから離して。次の授業に遅れる。」

「あ、ごめんごめん。」


と言って彼はあっさりと腕を離した。

さっきまでとは全然雰囲気が違って逆に気持ち悪かった。

そのまま彼は友達らしき人達と教室へ戻っていった。

私はこれ以上変に思われたくないからそそくさと早歩きでその場を出た。


まだ、女子達のコソコソ声は続いていた。
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