嘘、
そのときの授業では全く何も無かった。

……全くといったら嘘になるかな。

少し陰口が聞こえたくらい。

ところどころの女子の会話に私の名前が出てきたから分かりやすい。

原因はさっきの貴樹浩平。

どうして私に構うの。

女子にモテるんだから私なんか放ってくれさえすればいいのに。

同情?なおさらやめてほしい。

私は一人でいなきゃいけないんだから。



授業が終わり、教室へ戻ろうとしたとき、

ある女子のグループに声をかけられた。


「天崎さん、さっきの何?」


それは私が聞きたい。


「何?貴樹先輩狙ってんの?」


それはおたくでしょう?


「天崎さん、顔良いからね。大人しくしてれば男子に構ってもらえると思ってる?」


正直構ってほしくないんだけど。


「そうやって何人もの男を誑かしてるんじゃない?」

「ありえるー!」


よくそこまで妄想できるよね。逆に尊敬する。

なんてぽいぽいと簡単に口から言葉は出なくて、

私は彼女達に言われるがままでずっと何も答えなかった。

それに気分を害されたのか、グループのリーダーらしき人が私を壁に追いやって、

バンと壁に手を叩きつける。


「何か言えよ!」

「……じゃあ言うけど、貴樹先輩は狙ってないよ。」

「はぁ!?」

「私はあなた達に彼をとってもらいたいくらい。正直構われて困ってる。」

「構われて困ってるとかふざけんじゃねぇよ!」

「そして、男を誑かしてるつもりはない。そんな男はこっちから願い下げ。」

「アンタ分かってる?今の状況。よくそんなに私達挑発できるね。」


別にしてるわけじゃない。

何か言えって言われたから言っただけ。

私はおかしなことなんてひとつもしてない。

とか本音を言おうとしたら、背後から教師がやってくるのが見えた。

彼女達にもそれは分かったらしく、すぐに逃げ出した。

言い返すことができなくて、少し教師に苛立ちを覚えた。

そのまま教師に小さく頭を下げ、教室へ戻った。
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