≡イコール 〜守護する者『霊視2』より〜
「じゃぁ、私は町に買い物に行って来ますから、お腹が空いたら、テーブルの上のパンを食べるのよ。」


「はい、母さま。

行ってらっしゃい。」


母親は、出がけにもう一度振り返った。


「いい?サージェル・・・

母様との約束・・守ってね・・・」


母親は優しく微笑むと、そのままドアを出て行った。

サージェルは、母親の背中を見送ると、テーブルの上のパンに手を伸ばした。

硬いパンを小さくちぎり、サージェルは口の中へ放り入れた。

だ液で、硬いパンを軟らかくなるまで、ずーっとかみ続けながら、昨日森の奥で出会った、鹿の事を考えた。


お腹の大きな母鹿が、森の中の湖のほとりで、動けないでいた。

見たところ、母鹿は苦しそうにしており、お産が近い事がなんとなく分かった。

サージェルは、まだ14才だったが、動物が大好きで、様々な動物の出産に立ち合ってきた。


しかし、鹿クラスのお産は初めてだった。

興味と心配とで、サージェルの胸は強く激しく鼓動を打っていた。


「さぁ・・・ガンバレ・・・」


鹿のお産に付き合っていると、日が暮れるのも忘れて、サージェルは、母鹿のそばに居た。

暗くなっても帰らない息子を心配し、王様の側近である父が、捜しに来て、無理矢理サージェルは家に帰らされたのだった。

昨日はなんとか、母鹿を、他の動物に襲われないよう、サージェルが身体をさすりながら、ほら穴まで歩かせた。

木の実の皮に、水を入れて置いては来たが、喉を渇かせているのではないか・・・

お腹を空かせているのではないか・・・・

逆子だったら、苦しんでもがいているかもしれない・・・

色々な事を考えているうちに、サージェルは、居ても立ってもいられなくなった。


『ほんの少し・・・ほんの少し様子を見に行くだけなら・・・』


サージェルは、母親が町から戻る頃までに、家に戻ればいいと思った。


テーブルの上のパンを、布にくるみ、サージェルは森へと走って行った。



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