≡イコール 〜守護する者『霊視2』より〜
何百という兵が、一斉に火のついた矢を、森に放った。

森の至る所に火が点いた。

夜空に舞う炎の矢は、まるで火の雨のようだった。

それは、随分先まで逃げ延びたと思っていた、サージェルの上空までもかすめていた。

子鹿を抱いた、サージェルの後方や左右、ましては前方にも炎の矢は落下していた。


「まずい・・・こんな所まで届くなんて・・・

ハッ・・火の回りが早い!!

どうすればいいんだろう・・・

そうだ・・・

とにかく遠くへ・・・」



サージェルは、次々に燃え広がる炎と追いかけてくるような煙から逃げるように走った。

しかし、走っても走っても、炎はまるでサージェルをあざ笑うかのように追いかけてきた。

サージェルは行き場を無くし、立ち止まった。



「ハァ・・・ハァ・・・どうしたらいいんだ・・・

熱い・・・苦しいよ・・・

父さま・・・母さま・・・

ハッ・・・子鹿は・・・」



サージェルは、子鹿に目をやると、かなりグッタリとしていた。

小さな身体で、煙を多く吸い過ぎたようだった。



「ハァ・・・頑張って・・・水・・・

そうだ・・・湖の方へ戻ってみよう・・・

逆にあの辺りには、もう誰も居ないかもしれない・・・」



---- ドスッッ・・



サージェルが湖の方へ引き返そうと振り向いた瞬間、炎の点いた矢が、子鹿ごとサージェルを貫いていた。

サージェルは、前に進めようとしていた足が宙に浮き、いつの間にか、草むらに仰向けになっていた。


子鹿は、あおむけになったサージェルの胸の上で、静かに息を引き取った。


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