≡イコール 〜守護する者『霊視2』より〜
サージェルは、とりとめなく同じ事を何度も考えていた。


『僕が子鹿の事なんか気にしなければ、誰も死ななかったの?

いや・・僕が気にしなかったら、あの母子は死んでいた・・・

でも・・・

結局2匹とも王様に殺された・・・

もともと、死ぬ運命だったって事・・・?』



サージェルは、1人何もない暗い場所で1人で考えていた。

どれくらいの時間考えていたのか・・・

サージェルにも判らなかった。



「サージェル・・・サージェル・・・」



「・・・誰?!

僕は、今とても大事な事を考えているんだ。

邪魔しないで!!」



声はするものの、サージェルを呼ぶその者の姿はどこにも見えなかった。



「あなたが考えているのは、この事?」



声の主がそう言うと、サージェルの目の前に母親が王に懇願する姿が映った。

その母の隣では、父も苦しい顔をしながら、森へと全力で馬を駆けさせた姿が映っていた。

そして洞窟では、産まれたばかりの子鹿に喜ぶ自分。

しかし、王という権力の元に、そこに在った全てが消えた。

女は息子と夫を守るため、男は妻と息子を助けるため、息子はまた別の命を守るため、全力で生きていた。

王だけが・・その思いを、虫けらのように扱った。

そして、全てが焼き尽くされた。

焼き尽くした跡には、城が建てられ、その城から見える湖を見て、王と呼ばれる男は笑っていた。

・・・笑っていた。



その光景を目の当たりにした時、サージェルの心に何かの火が灯ったのが分かった。

それは、小さかったが、簡単には消すことが出来ない事も、サージェルには分かった。




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