≡イコール 〜守護する者『霊視2』より〜
ハチは老女の喋りを黙って聞いていた。


「警察に連絡してやろうか!

アンタの家族が捜してるかもしれんからね。」


老女がそう言って、家の中へ戻ろうとすると、ハチは老女の前掛けを軽く噛んで引っ張った。


「おや、どうしたんだい。

帰りたくないのかい・・・」


---- クゥーン・・・


そう言って、ハチは老女を見つた。



「そうかい・・・そうかい・・・

理由は分からないけど、今は帰れないんだね。

分かるよ・・・

私も息子夫婦から、もっと都心で一緒に暮らそうって言われてるけどねぇ・・・

ここを離れたくないんだよ・・・

移動するにも・・それなりの時期ってもんがあるからね・・・

アンタも、ここに居たけりゃ居たらいいさ。

帰りたい時に、いつでも帰ったらいい・・・。

その時、まだアンタを待っている人が居るかどうかは、わたしゃ知らないよ。」


その言葉を聞くと、ハチはお座りをしてシッポを振った。


「じゃ・・なんか食べるモンでも持ってきてやるよ。」


そう言って老女は、家の中へ入って行った。

それから、老女とハチの生活が始まったようだった。

老女はハチを繋ぐ事もせず、ただ自由にさせていた。

オレの見る風景は、ジェットコースターの流れと同じように、突然猛スピードで流れ出した。

そうして、ゆっくりとある時点で止まった。


どれくらい経った時だろうか、ハチはその日落ち着きなくウロウロしていた。

朝ゴハンを持って、玄関から出てきた老女に、ハチはその日は近寄らなかった。


---- ハッ ハッ ハッ ・・・ワンッ!


ハチは一度だけ吠えると、老女の目をジッと見た。


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