狂愛ゴング
——『俺に惚れるなよ?』
ばっかみたい。
惚れるわけないし。
そんなことをさらっと言うほどナルシストで、人の頭にアイスのっけるわ、蹴るわ、物投げる最低の男に誰が惚れるか。
とりあえず、深く考えずここはさっさと退散するに限る。
「今、彼女いるから」
新庄の声は、私が知っている中で一番優しく聞こえた。
「……でも、あの子とは好きだから付き合ってるわけじゃないんでしょ? あの子だって好きじゃないって……」
うん、その通りだ。
別に、恋人同士の付き合いなんかしてない。恋人同士じゃない。彼女と呼ばれることには違和感しか抱かない。
私のことなのかと疑ってしまうほどに。
だけどそれ以上に、私がいるから、と……断る新庄が信じられない。
なんで今までのように暴言吐かないの。
なんでそこで、そんな発言するの。
「まーそうなんだけど……でもまあ付き合ってることに変わりないし、悪いけど」
体中に心臓の音が響き渡って体が震える。
中腰のままだからか。脚が震えて倒れ込んでしまいそうだ。
「あのこのこと……好きなの?」
聞くなそんなこと。
聞きたくないそんなこと。
なにも言わないで。なにも答えないで。答えるなら……私を傷つけるほど、めちゃくちゃなことを言って、ほしい。
「……どうかな?」
新庄が笑っただろう声を感じて体中の力が抜ける。目眩がする。意識が飛ぶ。
ふらついた体がバランスを崩して草に体をぶつけるように腰を落としてしまった。
「——え!?」
バサっと音を出してしまい、女の子の声が響く。
やって、しまった……。
ここで私の姿が見つかってしまえば……彼女はなんと思うだろう。新庄は……どう思うんだろう。
ぎゅっと唇を噛んで、目を瞑る。
心臓が、バクバクと音をひびかせる。